メイキング2

メイキング第1回「江戸の夜空に歓喜の歌を!Beethoven came over to Edo of 1824」A3サイズ ★メイキング1

メイキング第2回「Borderless~青の境界線を行く」A2サイズ★このページ

ガーゼ地にアクリル絵具で描く-作画工程

「Borderless~青の境界線を行く」の作画工程です。パース(遠近法)を利用した作画方法です。

聖柄さぎり画像
工程1
聖柄さぎり画像
工程2

1.私は全体のイメージを決めてから描く事はないのでラフ画は描きません。左右40cm定規が届く範囲で消失点を取り、奥から一棟ずつ建てながら構図を考えます。下描きには薄口のトレーシングペーパーを使用することが多いです。コピー紙も使いますが、真っ白すぎてイメージがまとまらない事もあるのです(きちんと描かなきゃ!という意識が働くのかも?)トレペの半透明半濁具合が落ち着くのですね。薄くても丈夫で消しゴムで数回消しても筆圧による消し残りもありません。もちろん本来の用途のひとつであるトレース作業にも使います。

ある程度描き進めたらキレイな線でトレースします。(工程1)

さらに手前に描き足していきます。(工程2)

ポイント① 奥から手前に建物を描いていくと、消失点が遠くて定規が届かないって事があります。そんな時は縮小コピーが便利です。上図(工程1と工程2)を80%で縮小してから手前を描き足していくわけです。元絵のサイズに戻すには125%で拡大すればOK。ちなみに50%縮小なら200%で元のサイズですね。それでも遠すぎる消失点は下絵をスキャンしてPC上のソフトなどで確認できます(メイキング1でCLIP STUDIOの活用法を解説)

聖柄さぎり画像
工程3

2.工程1と工程2をPhotoshopで重ね80%縮小コピーして手前を描き足します。これもトレースして125%拡大で元のサイズに戻します。(工程3)

※スキャン時の線画は白地を消して線だけを抜き出した状態にしています。(色域指定で白い部分を選択しレイヤーカットすると線画だけ残ります。この線画レイヤーを2~3回複製して乗算で重ねるとはっきりした黒い線になります)

聖柄さぎり画像
工程4

3.工程1~3を水平線の位置を合わせてPhotoshopで重ねます。工程2と工程3は奥の下絵に重なるので線画レイヤーの下に白地のレイヤーを作っています(工程4)

ポイント② 重ねる際は必ず水平線(アイレベル)の位置を合わせます。今回は建物同士が階段などでつながっているため消失点の位置も合わせていますが、画面内の建物自体は拡大縮小しても横にスライドさせても、水平線さえ合わせれば意外と不自然さを感じない構図変化を試すことができます。正確なパースには拘っていないので見た目に心地良ければOKな絵的マジックです。下図参照

聖柄さぎり画像
ポイント②絵的マジック

試しに手前の(工程3)を右にスライドさせてみました。さほど不自然さはないでしょう?水平線(アイレベル)が合っているからなのです。

聖柄さぎり画像
工程5

4.今回は水平線の位置を画面上部にしたので、俯瞰な構図に変形させます。3点パースは自力では面倒ですがPhotoshopでお手軽変形。編集▶変形▶遠近法で変形できます。垂直だったタテ線が下方向に傾き、わずかに俯瞰な構図になりました。(工程5)

聖柄さぎり画像
工程6

5.パースによる水鏡表現。水に映っている部分もパースを取って描きます。天気や時間帯の設定、水の透明度で映り具合は変わりますが、今回は晴天で無風ということにしましょう。色塗り時にわずかに水面に揺らぎを加えるつもりですが、ここはこのまま進めます。(工程6)

聖柄さぎり画像
工程7

6.水鏡部分を抜き出してみました。分かりにくいですが、薄い線が元の画像で濃い線が上方向に変形(縮めた)したものです。建物と水に映っている部分は上下対称に描きました。しかし、俯瞰な構図では少し違和感を感じるため縮めたわけです。もう少し縮めたほうが良いかもしれませんが、変形時の隙間を描き足すのが面倒で止めました( ̄▽ ̄;)(工程7)

ポイント③ パースのある映り込みは構造の見えない部分を意識する必要があります。頭を使う作業なので油断すると間違えます。眠い時はやめましょう(笑)

聖柄さぎり画像
工程8

7.工程5の変形で左右にできた隙間を埋め全体をまとめるため、さらに手前を描き足します。(工程8)

聖柄さぎり画像
工程9

8.いよいよキャラクターの登場です。今回は動物(少しだけ擬人化)に挑戦。あまり得意ではないけど(^_^;)ある程度は配置場所を考えていますが、それぞれ描きやすいサイズで描きます。(工程9)

聖柄さぎり画像
工程10

9.Photoshop上でキャラの大きさを変えながら配置していきます。配置場所によってはキャラがパースに合っていない事もありますが、変形機能で微調整。反転させて配置しているキャラにお気付きでしょうか?※和服・洋服を着た人物なら反転の際に襟の合わせの左右が変わるので修正します。

キャラを見やすくするため、小道具の移動や背景も修正します。手前の手すり部分、子猫を配置したら窮屈だったので修正。バラもヨコ移動。(工程10)

ポイント④ 建物が地面に接する位置を把握する(今回は水面位置)これを怠ると建物が宙に浮くという怪奇現象が起こります(笑)下図参照

聖柄さぎり画像
ポイント④

変形前の工程4の画像を左にずらして右端の消失点も表示させました。青い線が水面に接している部分です。オレンジの線は奥から手前に描く上で目安となる補助線で、建物の重なりで見えていない水面に接する部分の把握に描き込んでみました。※一番手前の建物の左に向かう消失点はPC上でも把握できないため、大体の感覚で描いています。手前は水面に接する部分が見えないので多少誤魔化せます..えっ(-_-;) ただ、人物を描く場合は建物の一階の高さに気を付けて描くので、見えない部分も意識しています。画像はクリックで拡大します。

ポイント⑤ 絵の世界だから可能なカタチを見せる構図創り。下図参照

聖柄さぎり画像
ポイント⑤

たとえば、手前の建物に段差を付けることで、ひとつ奥の建物のカタチをチラ見せ。画面が単調になるのを防いだり、建物の極端な重なりによる不自然さの軽減に、ちょっとだけ有効だと思っています。

もうひとつ。普段は描くけれど今回は機敏な動物キャラなので省いたのが手すりや手すり壁です。人物の場合は安全面も考慮するのです(私は人物が飛んじゃう?ファンタジーは描かないので)描かないメリットは、階段の形状を手すりで隠れることなく見せることで、絵的に面白みを持たせることができる点です。

聖柄さぎり画像

余談ですが、この作品はアーカイバル・デジタル・グラフィック仕様(デジタル形式の版画)で100枚限定(エディション)で製作されます。2022年6月にバルセロナの世界文化遺産「サン・パウ病院内」で展示されます。→詳細 版画製作時はF6号(308×409mm)ということで大きめのA2サイズで描くことにしました。画面を最大限に使ってほしいので、下描き中もF6号を最大限に拡大した状態を意識する必要がありました。中途半端にキャラの体が切れたら悲しいですからね。そうすると上図のように左右が断ち切られるのです。